変える勇気と、変えない覚悟。119年続く老舗和菓子店で出会った「経営の哲学」
「変わらなければ生き残れない。」
取材をしていると、この言葉を何度も耳にする。
SNSを活用しなければ。
新商品を開発しなければ。
若い世代に響く見せ方をしなければ。
メディアトーキングとしても、情報発信の重要性や、時代の変化に対応する必要性を伝えてきた。
実際、それは間違っていない。
変化を拒み続ければ、取り残されてしまうこともある。
だから私は、「変わること」を前向きなものとして捉えてきた。
そんな私が、館林市で創業119年を迎える老舗和菓子店「田月堂」の取材で、少し立ち止まることになった。
田月堂の店主は、自らの店の課題をよく理解していた。
「SNSは苦手なんです。」
製造に追われ、情報発信まで手が回らない。
若い世代への認知も十分とは言えない。
マーケティングが弱いことも、自分たちのウィークポイントだと認識している。
だからこそ私は、SNS活用や情報発信の提案をした。
しかし、話を聞けば聞くほど、別のことに気づかされていった。
それは、「変えない」という選択だった。
田月堂の看板商品であるどら焼き。
約60年作り続けてきたあんみつやわらび餅。
そして何より、豆の選定から炊き上げまで自家製にこだわる「あんこ」。
そこには、とてつもない手間と時間がかかっている。
「流行の商品を出せば売れるかもしれない。でも、味がぶれちゃうんだよね。」
店主は静かにそう話した。
新しいものを否定しているわけではない。
むしろ、新しいことの必要性も理解している。
それでも、三代にわたって通ってくれるお客様がいる。
四代目になっても食べ続けてくれる人がいる。
その人たちが求めているのは、「新しさ」ではなく、「いつもの味」なのだ。
私はこれまで、変化することに価値を見出してきた。
AIもSNSも動画も活用する。
時代に合わせて伝え方を変える。
それは今後も必要だと思っている。
でも、田月堂の話を聞いているうちに、もう一つの真実が見えてきた。
本当に難しいのは、変えることではなく、変えないことなのではないか。
効率化を求められる時代に、手間をかけ続けること。
流行に流されず、目の前のお客様との約束を守り続けること。
「これでいい」ではなく、
「これがいい」と言い切ること。
それは単なる職人気質ではない。
一つの思想であり、哲学なのだと思った。
私は3,000社以上の経営者を取材してきた。
挑戦する人もいれば、大胆に変革する人もいた。
その姿に勇気をもらってきた。
でも今回、119年という時間を積み重ねてきた老舗から、別の勇気を教わった気がする。
変えることだけが正義ではない。
守るべきものを守り抜くことにも、大きな価値がある。
そして、それは決して簡単なことではない。
変える勇気は称賛される。
けれど、変えない覚悟は、あまり語られない。
119年という時間は、その覚悟を積み重ねた人だけが持てる重みなのだ。
時代のスピードは、これからさらに速くなっていくだろう。
だからこそ、私たちは問い続けなければならない。
何を変えるのか。
そして、何を変えないのか。
メディアトーキングは、人と会い、話を聞き、その人の物語を言葉にする仕事をしている。
今回の取材で出会ったのは、和菓子の話ではなかった。
経営の話でもなかった。
それは、「どう生きるのか」という問いそのものだったように思う。
あなたは、何を守るために変わり、
何を守るために変わらないのだろうか。
その答えを考えるきっかけが、館林の老舗和菓子店・田月堂のあんこの中にあった。
店名:和菓子処 田月堂
代表:田口邦信
住所:館林市仲町12−32
TEL:0276〜72〜0085
営業時間:午前9時から午後6時
定休日:水曜日
