Column

メディアトーキング物語 第7回

「記事を取りに行くのではなく、価値を“作りに行く”」

メディアトーキング代表・山元将永

前回、第6回では、
新聞記者として取材を続ける中で、
私はある感覚を持ち始めたとお話ししました。

それは、

「人は、心を許した相手にしか本音を話さない」

という、当たり前でありながら、
仕事の本質を決定づける事実でした。

社長たちは、
情報を語っているようでいて、
実は「信頼できる相手かどうか」を
無意識に見極めています。

そして・・
信頼が生まれた瞬間、
それまで閉じていた扉が静かに開く。

第6回で触れた「懐に入る力」は、
まさにその瞬間に関係していました。

今回、第7回では、
その「懐に入る」という感覚が、
どのようにして

「仕掛けるメディア」

という思想へと発展していったのか、
その過程をお話しします。

■ 1 新聞記者という仕事の現実

新聞社に入って最初に思い知ったのは、
記者という仕事の構造でした。
地方経済紙の記者は、
・記事を書く
・新聞購読営業
・広告営業
この三つを同時に担います。
そして私は、
ここである違和感にぶつかりました。
「記事を書いたから広告を出してもらえる」
この関係は、
実際の経営現場では成立しにくい。
自分自身が経営を経験していたからこそ、
その感覚は強くありました。
役に立っていない段階で
広告をお願いする――
それはどうしても不自然に感じたのです。
そこで私は、
一つの覚悟を決めました。
「先に価値を渡そう。」
この決断が、
後の仕事のスタイルを決定づけます。

■ 2 取材の目的が変わった日

それまで私は、
こう考えて取材に行っていました。
「今日はどんな記事が書けるだろう」
しかし、
ある日から問いが変わります。
「今日は、この社長に何を持って行けるだろう。」
持って行くのはモノではありません。
他社の成功事例
技術情報
補助金情報
人材情報
業界トレンド
それらを
「その社長に合う形」に加工して持っていく。
すると不思議なことに、
社長との距離が変わり始めました。
取材対象から、
未来を一緒に考えるパートナーへ。

■ 3 第6回から続く「信頼」の正体

第6回で私は、
あることに気づいたと書きました。
それは、
信頼とは、
時間をかけて築くものではなく、
相手の未来を一緒に考えた瞬間に生まれる
という感覚でした。
社長は、
自分の課題を「解決してくれそうな人」に
心を開きます。
そして私は、
次第にある特徴に気づきます。
社長が本音を話す瞬間は、
取材本番ではなく――
雑談の時間だった。

■ 4 雑談の中に眠る「価値の原石」

社長たちは雑談の中で、
驚くほど重要なことを話します。
「実は新しい事業を考えていて…」
「人材が本当に集まらなくて…」
「後継者がいないんだよね…」
「昔、こんなコンプレックスがあってさ…」
これらは記事には書けません。
しかし私は確信しました。
記事にならない情報こそ、未来を動かす。
なぜならそれは、
別の企業の課題と
つながる可能性を持っているからです。

■ 5 「懐に入る」という自分の特性

ここで私は、
自分自身の性質にも気づき始めました。
私は昔から、
人の懐に入るのが比較的得意でした。
計算ではありません。
ただ純粋に、
「この人は何に悩んでいるのだろう」
「この人は何をやりたいのだろう」
そこに興味を持ってしまう。
歴史の中では、
隠密が生き延びる理由は
「相手の懐に入る力」だったとも言われます。
今振り返ると、
私はスパイではありませんが、
信頼の懐に入る能力が、
現在の仕事の基盤になっていた
そう感じています。
そして、この能力が
単なる信頼構築を超え、
「価値を生む接続点」
へと変わっていきます。

■ 6 社長同士をつなぐ瞬間

ある食品会社の社長が言いました。
「健康志向の商品を作りたい。」
別の日、
化粧品OEM会社の社長が言いました。
「素材開発は得意なんだけど、食品にも広げたい。」
その二つの言葉が、
私の頭の中で重なりました。
「あ、この二社は絶対につながる。」
引き合わせた結果、
商品開発の交流が始まりました。
私は専門家ではありません。
ただ、
話を覚えていた。
それだけです。
しかしその「記憶」が、
新しい価値を生みました。

■ 7 場をつくるという才能

独立時代、
私は同級生のFacebookグループを運営していました。
誕生日紹介をしたり、
交流を促したり。
それは後に、
社長懇親会へと発展します。
私は社長たちを、
「この人とこの人を会わせたい」
という直感だけで集めました。
ある日、
参加した社長がこう言いました。
「ああ、山元さんがいて安心した。」
この言葉は、
私の中で決定的でした。
安心できる空気そのものが価値になる。

■ 8 「仕掛けるメディア」という思想の誕生

こうして、
雑談の価値
懐に入る信頼
つながる瞬間の感動
場が持つ空気
これらが重なり、
私はある言葉に辿り着きます。
「自分は記事を書きに行っているのではない。
価値を作りに行っている。」
記事は結果であり、
本質は「出会いの設計」にある。
私はそれを、
仕掛けるメディア
と呼ぶようになりました。

■ 9 そして、その思想は次の段階へ進む

しかし、
この思想はビジネスの世界だけでは
収まりませんでした。
企業の強み
社長の想い
地域の資源
社会課題
それらがつながることで、
もっと大きな価値が生まれる可能性を
感じ始めたのです。
そしてある日――
その感覚を決定づける
「ひとつの言葉」と再会します。
「羊の毛が余っているんだよね。」
当時はただの雑談でした。
しかしその言葉が、
数年後――
入院している子どもたちへ届ける
真っ白な人形とつながるとは、
まだ知る由もありませんでした。

■ 10 第8回へ ・・価値が社会へ広がる瞬間

第7回では、
信頼が価値を生む構造
雑談に眠る可能性
懐に入る対話力
仕掛けるメディア思想の誕生
についてお話ししました。
次回、第8回では、
この思想が
ビジネスを越え、
子どもたちの未来と
社会貢献へ広がっていった物語
群馬キワニスクラブ設立と
「眠っていた価値」が動き出した瞬間
についてお話しします。
価値は、
企業の中だけに存在するものではない。
社会の中に、
まだ言葉になっていない形で
眠っているのかもしれません。