法律の「正解」だけでは守れない
——問題社員対応の現場に必要な“判断軸”とは
群馬県館林市に拠点を置く上野労務経営法律事務所の代表弁護士、上野俊夫氏が、企業の人事労務担当者や経営者に向けた書籍『職場の問題社員に困ったら読む本――弁護士が教える採用・懲戒・解雇の完全対策』を出版した。
近年、企業現場では“問題社員”への対応が大きな課題となっている。勤務態度や能力、協調性など、様々な問題を抱える社員への対応は、単なる個別対応にとどまらず、組織全体の生産性や風土にも影響を与える。特に中小企業においては、人材の入れ替えが容易ではないため、一つひとつの判断が経営そのものに直結する。
しかし、現場でよく見られるのは「なんとなくの理解」に基づいた対応だという。
「採用後14日以内であれば解雇できる」「試用期間中なら比較的自由に解雇できる」「1か月前に解雇通告すれば問題ない」——こうした認識は一見正しそうに見えるが、実際には多くの前提条件や制約があり、安易に運用すれば大きな法的リスクを伴う。
上野氏は、本書を通じてそうした“誤解”を丁寧に解きほぐしながら、採用段階での見極め、就業規則の整備、配置転換や賃金調整といった、段階的で現実的な対応の積み重ねこそが重要だと説く。
「解雇」という最終手段に至る前に、企業として取るべき選択肢は数多く存在する。そのプロセスを適切に踏むことが、結果的に企業と社員の双方を守ることにつながる。
一方で、上野氏が繰り返し強調するのは、法律の知識そのものではない。
むしろ、その背後にある「人との向き合い方」だ。
労務トラブルの多くは、制度やルールの問題として表面化する。しかし、その根底には「採用の時点での判断」「関係構築のあり方」「期待値のズレ」といった、人と人との関係性の歪みがある。
だからこそ同氏は、単に法的に正しい対応を示すだけでなく、企業側の姿勢そのものに目を向ける必要があると指摘する。
象徴的なのが、「結婚と雇用は似ている」という比喩だ。
結婚が相手を理解し、時間をかけて関係を築いていくものであるように、雇用もまた採用前の見極めと、入社後の関係構築の積み重ねで成り立つ。どちらか一方の都合で安易に判断を下せば、結果として双方にとって不幸な結末を招く可能性がある。
この視点は、現代の経営環境において特に重要性を増している。
人材不足が常態化する中で、「まずは採用」「とりあえず拡大」といった短期的な判断が優先されがちだ。しかし上野氏は、そうした拙速な意思決定に対して警鐘を鳴らす。人に十分な投資を行わないまま事業を拡大すれば、後に大きなひずみとなって返ってくるからだ。
「法律の正解」は確かに存在する。
しかし現場では、その正解だけでは判断しきれない場面が数多くある。
そのとき問われるのが、経営者自身、そして専門家自身の“判断軸”である。
どこまでを許容し、どこで線を引くのか。何を守り、何を優先するのか。
本書は、単なる実務書にとどまらず、そうした判断を支える土台を整える一冊でもある。
そして同時に、企業経営における「人との向き合い方」を改めて問い直す契機を与えてくれる。
地域に根ざし、中小企業の現場と向き合い続けてきた上野氏の経験が凝縮された本書は、これからの時代における労務対応のあり方に、一つの指針を示している。

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